2004年12月10日

A305「沈黙の村 番外編〜ヴァルターと秘密の手帳」2

 人狼は退治されたが、村人の犠牲を悼むように小ぬか雨の降る朝だった。
空にはやや明るさがあるものの、村を明るくしていた子供たちの笑い声が絶え、森に時折響いていた斧の音はもはやなく、道を歩み、宿を探す旅人の足取りも、それを迎える宿屋の温かい言葉もない。
 この時間になら、軽やかに羊の鈴の音もしていた道を、パメラはちょっぴり寂しい思いで走っていた。
占い師であるヴァルターを信じ、守った夜。自分の仕掛けに音を立てて身を翻し、すばやく放った矢、渾身の短刀の一撃をも避けて逃亡した黒い影。
それらが、まさか本当にカタリナやレジーナ、リーザだったとは今も信じがたいのだ。
 カタリナが最後、己の身を差し出したのは、敗北ばかりではない、きっと、カタリナ自身の優しさもあるからだと、パメラは思いながら足を動かし続ける。
 三人の墓がある道に差し掛かろうとして、ふと、彼女は足を止めた。
「……モーリッツさん……?」
 肩を落としたコート姿を目で追いかける。花束を下げた姿が気になったが、後を追いかけると、老人をますます苦しめるような心地がした。
「後で、様子見にいこうかしら。ディーター先生と」
 呟きながら、パメラはぐるっと道を大きく回り、ディーターの家の方角へと走っていった。


 雨が降ろうが晴れ渡ろうが、変わらない場所もあるものだ。
コインを数枚、カウンターに置いて、ヨアヒムは店の奥に声をかけた。
「イエーイ、おはよう、オットー」
 微妙に間の伸びた挨拶に、ややあって、釜のほうから前掛けで手を拭きつつオットーが現れた。
「おはよう、ヨアヒム。……もしかして、『超寝てた』の?」
「あ、先に言われちゃったよ。うん、気づいたら朝だった」
 パンの焼ける良い匂いに、青年は鼻をうごめかす。
「今朝は、マスタードパンが焼けてるよ。一つどう?」
「目が覚めそうなパンだなー。貰ってくよ」
 穏やかな笑顔でオットーはさっさとパンを紙に包み、さっと差し出す。
暖かな匂いと、確かな手。それを信じてよかった、心底そう思いながらも、ヨアヒムは、目じりに滲んだものを隠すためにから欠伸をして見せた。
このパンを、あの三人はもう食べられないのだから。


 墓と称し埋められ、清められた場から、三つの気配はその存在を捉えた。
「……よぅ。役立たずだったな」
(爺さん)
(とっても寂しそうだわ)
(無視されちゃったもんね)
 人ならざる魂が、もはや生身の人狼にさえ届かぬかすかなささやきを交しあう。
「俺はあんたらを楽にしたのか、苦しめたのか……わからねぇな、今となっちゃあな」
 できるだけ探したのだろう、野の花の花束が三つ、そっと墓の前に置かれる。
「レジーナ……カタリナ、リーザ……お前ら皆、いい女だったかいい女目前か、十年後が楽しみだったってのによ……」
(ちょっと待っておくれよ、過去形はひどくないかい)
(目前って何ですの、聞き捨てならないわ)
(十年待たなくてもいい女なの!)
 しかし、墓の上と下とでは、相変わらず思いが食い違いあっているようである。


posted by ai-s at 00:12| Comment(4) | TrackBack(0) | 人狼SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 僕が過去過ごした三つの村で得た経験は、僕らは割と気軽に「今日はオットー吊りね」などと言っているけど、自ら吊ってしまった人の死は決して軽いものじゃない、ということでした。人を無意味に死なせてはいけない。間違って人を吊ったら、なぜ吊ってしまったかを猛省しなければならない。(そういう意味では、例え役割が終わった能力者だとしても、自らを吊れというのは失言でしたね)

 でも…。人じゃないあの獣たちは、吊って当然。吊ることにためらいがありませんでした。むしろ誇らしげに吊っていたような気がします。

 それは、多分僕がまだ、人にあらざるものとして生きたことがないからなんでしょう。いつか僕が、止むにやまれず闇に乗じて人を襲わずにはいられない存在になったとき、ふたたび、ここを訪れることにします。彼らもまた生きるもの。無意味に殺されていい生きものなんて、いない、ということを頭で考えたんじゃなく、経験として味わったとき、今とは違った気持ちでこの番外編を読むことになるんでしょう。

 ありがとう、aisさん。
Posted by oikos at 2004年12月10日 01:52
モーリッツお爺さま、、、切ない。人狼キャッツアイの三人組は、墓下でも元気そうですね。最後の所だけほのぼのしちゃいました(笑)。

お爺さまは、狂人ということでしたが…その後はどうしているのでしょうね。あの後もあの村で暮らしているのでしょうけど、狂人として、占い師を騙った記憶があって…それはつまり、村の皆を騙そうとしてたわけで。うーん。

またもや、素敵なSSをありがとうございました。
Posted by tekito-A305ヨ at 2004年12月10日 15:43
>oikosさん
人狼も人間も、同じく背後に人がいるんですよね。時々それを忘れて突っ走ってしまうのですが、できれば、両方に優しいプレイがしたいと思っています。
人狼側、時間に余裕がおありでしたらお勧めします。
赤ログが、不思議と温かいものですよ。

>tekitoさん
人狼キャッツアイ……ウルフ愛というか(寒っ)
今回終わって嬉しかったことの一つは、人狼側が本当に頑張っていて、狂人も仲間と見なして愛称で呼んでいたことなんですよ。

また、当然続きます。ヨアヒムも、まだ出てない人たちも出番がちゃんとありますよ〜。
Posted by ais at 2004年12月10日 21:56
ヨアヒムはアレだな、能天気なフリしてるが・・・やっぱ思いを寄せてくれた女が居なくなっちまったら寂しいんだろうな。
モーリッツの爺さんにとったら、レジーナ達は娘や孫も同然だったんだろうなぁ。そう考えると「たとえ人狼になっちまっても、なんとかしてやりてぇ」と思っちまうのも親心だったのかもしんねぇな。
Posted by A305村 ディーター(meso) at 2004年12月10日 23:55
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