2004年12月11日

A305「沈黙の村 番外編〜ヴァルターと秘密の手帳」3

 怪しげな新興宗教の教会、というには余りにも古い礼拝堂。
背負いかごを肩から外し、ヤコブはそっと入口から中を覗いた。
 ジムゾンが壇の前に額ずき、祈りを奉げている。怪しい言動はするものの、やっぱり聖職者のようだ。
お祈りの邪魔しちゃいけねえべな、と、再び背負いかごを持ち上げて、背負おうとしたときだった。
「ヤコブでースカ?」
「うひゃっ」
 腰を抜かしそうになるヤコブの肩をしっかり支え、ジムゾンは後ろから耳元に囁く。
「もーしかして、入信しにキーてくれマーしたか?」
「ちっ、ちっがうちがうだーよっ……じゃ、なくて」
 神父の言い方が伝染しそうになり、『もう離しマーせん』的な肩の指先も恐ろしく、本来の目的を忘れかかる。
「ト、ト、トーマスさんたちのお墓にゆこうと思うんだども、神父さんはどうだべか、と思って。お仕事忙しいんだべか、おら一人で行ってこようと……」
「あー!なーるホドねー、それでーシタら、ご一緒しまショー!」
 ようようヤコブの肩から手が離れ、重たい背負いかごを、神父の手が意外にもしっかりと持ち上げる。
「林檎でースカ」
「今年は、いい実がどっさりなったんだべ。神父さんとこにも後で持ってくだ、お楽しみに、だべ」
「有難う、ヤコブ」
 少しは嬉しかったのか、ジムゾンの返事は、妙な抑揚を伴わない短いものだった。
そっと、礼拝堂の扉が閉まる。


 棚にパンを並べなおしていたオットーは、二つの足音が耳に入ると、うっすらと笑みを浮かべた。
前掛けの紐をいじりつつ、ゆっくり振り返る。
「……よお、オットー、おはようさん」
「おはよう、ディーター、パメラ」
 ディーターも、その後ろにいるパメラも足音からすれば走ってきたのだろうに、少しも息を切らしていない。
「なぁ、ヴァルター知らねえか」
「どうしたんだい?……何かあったの?」
 人狼の脅威が終わったばかりなのに、と憂い顔になるオットーに、慌ててディーターは首を横に振った。
「違わい、ほらあれだ、秘密メモってやつだよ。ヴァルターに聞こうと思ったら、何でか家にいやがらねえんだよ」
「今朝、お店のほうに来てないかと思ったのよ」
 なあんだ、とオットーは笑う。
「ううん、『お店には』来てないよ。今朝の最初のお客はヨアヒムだった」
 ディーターとパメラは顔を見合わせる。
「本当に何かあったんじゃねえだろうな」
 まさか、と思いつつも、尚もオットーは紐をいじったまま二人を見守った。
少し考えたパメラが、音のしない程度の強さで手を打ちあわせる。
「ひょっとすると、お墓かしら。モーリッツさんも向かっていたし」
「……じゃ、とりあえず爺さん先にめっけて、そっから探すか。有難うよオットー、後でパン買いに寄っからな!」
「パイとくるみパンお願いねー!」
「行ってらっしゃい」
 二人が店から出た途端に走り去るのを、なんだか追い払ったみたいだな、と苦笑しつつも、オットーは店からパン焼き釜のところに戻り、釜の火を確かめると、そちらと繋がっている自宅のほうへ入っていった。自宅といっても、たいした広さではないのだが。
「探してたけど、いいのかな、村長」
 しーっ、と、ヴァルターは唇に指を当てる。
「行ってしまったね?二人とも」
 オットーは積極的な嘘をついたわけではない。店には来なかった、朝ヴァルターに出くわして、あんまりにも疲れているように見えたから、自宅で休ませていただけである。
「お墓に行くっていってましたよ」
「そうか……後で私も行かねばならんのだが……」
 寝不足らしく、目の下にくまが出来ている。連日の人狼騒ぎがこたえているようだ。
「で、村長。秘密メモって……」
「存在せん」
 きっぱりとヴァルターは答えた。オットーはややじと目になりつつ
「アルビンさんと部屋の隅にしゃがんでいたのは……」
「幻影だっ」
 まあ、そういうことにしておいてあげたいのだが、あれだけディーターが騒いでいるとオットーにもそれなりに気になってくる。
「村長……一つ聞きたいんですが。仮にあるとしたら、僕のことどう書いてあるんだろうね?」
 近隣の村で、そこそこ評判が良いパン屋の笑みに、ある種の変化があった。
「歌詞の間違いとか、聖書燃やしたとか……」
「一切書いてないっっ」
 頑なにヴァルターは首を横に振る。
「見た目よりちょーっとだけ年上とか、そんなことも書いてないよね?」
優しげなパン屋の笑みに、妙に迫力がある。
やはり別世界を覗いてしまった人は、豹変するものなのだろうか。なんとなく怖い。
「そもそも存在しない。ゆえに、アルビンに何か握られてるとすれば、私やジムゾンの悪戯程度だ」
 うーそーつーけー。と思わなくはなかったが、まあ、アルビンが実際にこちらに何か話を振ってきたら、オットーもディーターに協力すればいいだけのことではある。
それに実際、ヴァルターは寝かせる必要がありそうだ。
「まあ、いいですよ。あっちの長椅子貸しますから、寝ててください。くるみパン焼けたら起こしますから」
 占い師も絶賛のくるみパン、と売り出せば、もうちょっと売り上げもあがるかな、そんなことを考えながら、オットーは毛布を取ってくるべく寝室へと足を向けた。


posted by ai-s at 08:17| Comment(2) | TrackBack(0) | 人狼SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
神父様にお祈りをお願いしようと思っただけでなんでこんな怖い目にあわなきゃいけねーべかっ!?
人狼教はおっそろしいけんども、「もれなく、十歳若返り、超絶美化の特権」についてはオラ少し気になっていたべ。神父様はオラでもぴっちぴちの美少年にしてくださるんだろか?
Posted by A305 ヤコブ -sirokuro at 2004年12月13日 09:54
む。邪教の僕発見(違っ)

揺れるヤコブっちはまだまだ甘かったですね。
ご利益(?)はあるのでしょうか。
Posted by ais at 2004年12月15日 07:04
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